概要
ゲームについて
ジャンルとコンセプト
『Immortality』は、実写映像をベースにした「インタラクティブ映画ゲーム」。物語の断片となる映像をプレイヤーがつなぎ合わせることで、ストーリー全体を解き明かしていく形式だ。一般的なアドベンチャーゲームのように「キャラクターを動かして探索」するのではなく、「映像を探索する」という点が特徴的。
ゲームプレイの仕組み
- 映像クリップの発見
プレイヤーはマリッサ・マーセルという女優が出演した未公開映画3本の映像を見ながら、映像内の特定のオブジェクトや人物をクリック(マッチカット)することで、関連する別の映像クリップを発見していく。 - 構造の自由度
物語は時系列順や整然とした形では与えられない。むしろ、プレイヤー自身が映像をつなぎ合わせて、断片からストーリーを再構築する必要がある。この自由度の高さが、プレイヤーに「探偵のような役割」を与えている。 - 隠されたメタ要素
表向きのストーリー以外に、○○○○○○○○中に発見できる隠れたメタストーリーがある。これにより、物語の奥行きがさらに広がる。
物語のテーマ
- 表面的には「女優マリッサ・マーセルが出演した映画と彼女の失踪」というミステリーだが、テーマは「芸術」「時間」「死生観」など多岐にわたる。映画という形を通じて、創作と人間の本質に迫る深いテーマが隠されている。
評価
長所
- 革新的なデザイン
実写映像を駆使したゲームは珍しいが、その中でも『Immortality』は圧倒的な完成度を誇る。映像制作の細部まで作り込まれており、ただ観ているだけでも映画さながらの臨場感がある。 - 没入感
映像を操作しながら物語を紐解いていく過程で、プレイヤー自身が映画の中に入り込んだような感覚を味わえる。ゲーム内で扱われる3本の映画が、それぞれ異なる時代設定やジャンルを持っている点も魅力的。 - プレイヤーの解釈に委ねる構造
明確な結末や答えを提示せず、プレイヤーの探求心と解釈によって物語が形作られる。この構造が、物語を単なる娯楽ではなく知的挑戦として楽しませている。
短所
- プレイ難易度の高さ
断片的な情報をつなぎ合わせる作業は、ゲーム慣れしていない人や短い時間で結果を求める人には難しいかもしれない。物語をすべて解き明かすには根気が必要。 - 人を選ぶゲーム性
一般的なアクションやパズルのような即効性のある「楽しさ」を求めるプレイヤーには合わない。むしろじっくり考察しながら物語を解き明かすのが好きな人向け。
まとめ
- メタスコアやプレイヤー評価では軒並み高評価を受けている。特に、ストーリーの深さとゲームデザインの独創性は絶賛されており、2022年の革新的なインディーゲームとして多くの賞にノミネートされている。
- 一方で、自由度の高さゆえに「何をしていいかわからない」という声も一部で見られる。
感想
映像の断片化とプレイヤーの役割
このゲームの面白いところは、あえて物語を断片的に提供することで、プレイヤー自身に「探究者」としての役割を持たせてる点だ。断片的な映像をつなぎ合わせていく作業は、人間の記憶の断片を掘り起こして再構成する行為に似ている。つまり、過去の出来事をどう解釈するかは、その人自身の視点や価値観に依存する。これは、記憶が主観的なものであり、真実は必ずしも一つではないということを象徴している。
マッチカットによる時間と視点の飛躍
マッチカット機能は、時系列や空間を超えて別の映像に飛ぶ仕組みだけど、これがゲーム体験を映画的にしてる要因だ。この飛躍は、科学的に言えば「記憶の連想」に近い。人間の脳も、一つの刺激から関連する別の記憶に飛んでいく性質がある。それを映像で表現してる点が、この作品の革新性だと思う。
映画制作の舞台裏と人間ドラマ
表向きは映画制作の裏側を描いてるけど、本質的にはそれを通して人間関係や欲望、芸術への執着が描かれてる。特に、失踪した女優マリッサの人生を追体験することで、プレイヤーはただ観客でいるだけではなく、彼女の人生を「理解する」立場になる。これは映画ではなかなか味わえない没入感だ。
考察
このゲームは「記憶」や「真実」の相対性を突きつけてくる。例えば、プレイヤーが映像をどうつなぎ合わせるかによって、得られるストーリーが変わるし、どこに注目するかで発見の仕方も変わる。これは科学研究にも通じる部分があって、データをどう解釈するかで結論が変わるようなものだ。
さらに、「未完成の映画」という設定も興味深い。完成されていないものを探求する行為自体が、観る側に創造的な役割を求めてくる。これって、科学の仮説検証に似てるよな。断片的なデータをつなぎ合わせて仮説を立て、それを検証する。まさにプレイヤーは科学者のような立場に置かれてる。
あの不気味な映像は結局何なのか
巻き戻しで現れる存在の正体
巻き戻し機能を使うと、通常の映画のシーンでは観られない、異質な映像や音声が出現する。これらはストーリーの表層部分には存在しない「隠された真実」に触れるものであり、そこに登場する謎の存在は「不死者(The One)」と解釈される。
不死者とは何か
人間を超えた存在
巻き戻しで登場する「不死者」は、映画の登場人物や現実の人間とは異なる次元に存在している。「不死」を象徴する存在であり、時間や死を超越している。彼らは観察者のように振る舞いながらも、物語に影響を及ぼしている。
創作における永遠性の象徴
映画という媒体そのものが、現実では有限な人間の生命や行為を「不死化」する役割を持つ。映像として記録された物語や俳優たちの演技は、時間を超えて人々に影響を与える。巻き戻しで現れる映像は、これを視覚的に表現したものだと言える。
マリッサとの関係性
マリッサ・マーセルが失踪した背景には、この「不死者」との交わりがある。彼女が人間として「有限」であることを超えた存在になった(あるいはそのように選ばれた)結果、現実世界から「消失」したのではないかと考えられる。
テーマの考察:不死性と芸術
巻き戻しで現れる異質なシーンや不死者の存在は、以下のようなメッセージを含んでいると考えられる。
芸術の永続性
映画という芸術は、作り手や俳優がいなくなった後も、永遠に存在し続ける。この点で映画は「不死性」を帯びた媒体だ。しかし、その背後には、映画に記録された者たちの「有限な人生」が存在している。『Immortality』は、この二面性を描いている。
死と永遠の対比
不死者は、時間を超えて存在し続ける一方で、マリッサは現実世界から姿を消している。これにより、現実の「有限な命」と芸術の中での「永遠の命」が対比されている。不死者たちは映画を通して不滅であるが、それは同時に「現実の喪失」を代償としている。
人間の視点の狭さ
不死者の視点は、人間の認識を超えており、時間や物語を直線的に捉えない。これに対し、プレイヤーである人間は断片的な映像を時系列に並べようとするが、不死者の視点から見れば、それは無意味かもしれない。これは「人間が物事をどう解釈するか」にも問いを投げかけている。
全体的な考察
『Immortality』は、「ゲーム」と「映画」の境界を壊す作品だ。従来のゲームがシナリオを用意してプレイヤーに体験させるのに対し、このゲームでは断片的な情報しか与えられず、プレイヤー自身がストーリーの全貌を組み立てる必要がある。これにより、「物語を体験する」という行為そのものが大きく再定義されている。
また、ゲーム内に散りばめられたメタ要素や隠しストーリーは、プレイヤーに多層的な解釈を促す。「真実は一つではなく、解釈によって形作られる」という哲学的テーマが全編にわたって流れており、プレイヤーが自ら考えることで初めてゲームが完成する。この点で、『Immortality』は単なる娯楽を超えた「対話的なアート」と言える。